このページでは、仕事と介護を両立していくにあたってのポイントや活用できる制度を紹介します。
経済産業省によれば、仕事をしながら家族の介護を担うビジネスケアラーは、2030年に日本全体で約318万人に達すると予想されており、あなただけでなく、多くの方々が直面する課題となっています。

仕事をしながら家族の介護を担うことに大きな不安を抱くかも知れませんが、このページに記載されている内容を実践すれば、多くの課題が解決できます。
山梨県としても、県民の皆様一人ひとりが、思い描いた道を諦めることがないよう、介護離職ゼロ社会の実現に向けた取り組みを躊躇なく推進していきます。
目次
1.仕事と介護の両立を図る上での心構え(介護離職ゼロ社会の実現を目指して)
厚生労働省によると、離職者のうち「介護・看護」を理由とする人は約10.6万人で、年代別にみると50歳代~60歳前半が最も多くなっています。この年代は、社会人経験や専門知識が豊富で、企業の重要な役割を担っていることが多いため、離職は、本人だけでなく企業にとっても大きな影響を与えます。
介護離職に陥った場合、収入源や社会とのつながりが失われ、専門的知識もないまま終わりの見えない介護に多大な時間をかけるのは、精神的にも非常に大きなストレスを抱えてしまうと言われています。
このため、介護に直面した際「介護=離職」と考えるのではなく、まずは勤務先の両立支援制度や介護保険制度を活用し、あなた自身は家族介護の「プレーヤー」ではなく、介護のプロを上手に頼り、広い視野で全体を管理する「マネージャー」としての立場で、介護に関わっていくことが重要です。
2.これからの介護に備える(事前に知識を身につけよう!)
事前に把握しておくべき3つのポイント
(1)介護に関する相談窓口の把握

各市町村には「地域包括支援センター」という市町村が運営する施設があり、保健師、社会福祉士、介護支援専門員がチームとなり、住民の健康や生活をサポートしてくれます。
いざ介護が必要となった際にまず相談する場所になるため、場所や電話番号を確認しておきましょう。
大切!
「家族の面倒を見るのは自分しかいない」と思い込むのは禁物です。地域包括支援センターに相談すれば、介護のプロがその人に合った介護保険サービスを提案してくれます。介護のプロに手助けしてもらいながら仕事と両立することで、家族もあなた自身の人生も豊かなものになるでしょう。
(2)勤務先の両立支援制度の把握
仕事と介護を両立するためには、介護休業や介護休暇のほか、時差出勤や短時間勤務制度など柔軟に働くことができる勤務制度などを上手に活用することがポイントです。
このため、勤務先の就業規則を確認し、どのような制度が勤務先にあるのか把握しておきましょう。
介護休業や介護休暇については、「介護も仕事も諦めない!介護休業/休暇のススメ」をご覧ください。
なお、勤務先に制度が規定されていない場合でも、育児・介護休業法で定められている制度は利用が可能です。
ビジネスケアラーの皆さんは、勤務先に介護が必要であることを打ち明けると、仕事を辞めさせられたり、立場を降格させられたりするのではないかと心配されるかもしれません。
しかし、勤務先にとってみれば、皆さんは会社を運営していく上で、大切な仲間であり、離職されてしまった場合の喪失感は計り知れません。
また、法律上、企業は介護休業等の取得を拒否することはできず、介護休業等の取得を理由に降格、減給、賞与カット、解雇などの不利益を課すことも禁止されていますので、躊躇せず安心して勤務先や上司に相談してください
いざという時に備え、家族の介護について、普段から積極的に上司とコミュニケーションを図ることも、大切なポイントです。
大切!
「介護休業」は労働者が自ら介護に専念するために利用することを想定しているものではなく、介護が必要な家族を支える体制を構築する(介護保険サービスを受けるための準備期間など)ために、一定期間利用することを想定した制度です。

(3)家族間での情報共有
あなたは大切な家族のことをどれくらい知っているでしょうか。母の本音、父の思い出。将来のことも、いつかどこかで話そうと胸のどこかにあるけれど、当たり前すぎて、いつでも会えるからと、ついつい後回し。
大切だけど近すぎて深入りしづらいという何だかむず痒い距離感が、家族の健康状態や経済状況の把握を曖昧なものにし続けているのかも知れません。
しかし、例えば、ある日突然あなたの親がアクシデントに襲われ、これまで当たり前だった日々のコミュニケーションも困難となった場合を想像してみてください。
介護に直面してから慌てず、離職を選択せざるを得ない状況に陥らないためにも、かかりつけ医や服用薬の有無、家族間の役割分担を含めた介護方針、経済状況など、きょうだいも含めて普段から共有しておくことが大切です。

介護も仕事も諦めない!介護休業/休暇のススメ
「介護休業」は労働者が自ら介護に専念するために利用することを想定しているもの育児・介護休業法では、労働者の権利として「介護休業」や「介護休暇」の取得について規定されています。仕事と両立するための制度ですので、上手に活用しましょう。
・介護“休業”制度(仕事と介護の両立体制の構築に活用)
「介護休業制度」とは、労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族の介護体制を構築するために長期間休業できる制度です。
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業することができ、その間に介護と仕事の両立の仕組みづくりを行うことができます。雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす場合、休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が支給されます。
・介護“休暇”制度(ケアマネジャーとの打合せ等に活用)
「介護休暇制度」とは、通院の付き添いや介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせ等に活用することを目的とした制度で、要介護状態にある対象家族1人につき年に5日間、時間単位で利用できます。
有給か無給かなど、勤務先の規程によって内容が異なりますので、勤務先の介護休暇制度を確認しましょう。
なお、より詳しく制度を知るには、厚生労働省の「育児・介護休業法のあらまし」をご覧ください。
3.介護に直面したら(制度を上手に活用しよう!)
(1)介護の体制づくり
① 介護休業制度の利用
② 要介護認定取得とケアプランの作成
まず、地域包括支援センターへ介護保険の申請を行い、要介護認定を受ける必要があります。65歳以上で、市区町村によって介護や支援が必要と認定された場合には、介護保険制度に基づいた「介護保険サービス」を受けることができます (40歳から64歳であっても、特定疾病により介護が必要と認定されれば介護保険サービスを受けられます)。
介護保険サービスには、特別養護老人ホームなどの施設に入所しサービスを受ける「施設系・居住系サービス」と、自宅にいながら介護保険のサービスを受ける「在宅系サービス」があります。在宅系サービスには、通所介護(デイサービス) 訪問介護(ホームヘルパー)、福祉用具(車いすなど)貸与等があります。
要介護度が判定された後、ケアマネジャー(※)と相談しながら、「どのような介護サービスを、いつ、どのくらい利用するか」といったケアプランを作成します。ご自身がどのように働きたいのか、どのように介護に携わりたいのかをケアマネジャーに伝えて、納得のいくケアプランを作成しましょう。サービス費用の自己負担額は所得などによって変わりますが、基本的には費用の1割負担となります。なお、1ヶ月あたりの自己負担額の合計が一定額を超えた場合に、超過分を支給する「高額介護サービス費」制度もあります。
※ ケアプランを作成し、市町村やサービス事業者等との連絡調整を行う専門職
③ 介護保険サービスの利用
ケアプランに基づき、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護保険サービスを利用します。最初は戸惑うこともあると思いますが、徐々に慣れてきたようであれば、介護休業からの復帰を検討しましょう。
(2)仕事と介護の両立
① 介護休業から復帰後の働き方
介護休業からの復帰後も、介護保険サービスでは対応できず家族やきょうだいで分担して対応する場面(例えば、デイサービスへの送迎や食事の準備、部屋の掃除など)が想定されます。
そのため、勤務先の両立支援制度(時差出勤制度、短時間勤務制度、所定外労働の制限制度、フレックスタイム制度、在宅勤務制度など)を活用し、柔軟な勤務体系で働くことを検討しましょう。
特に、介護休暇制度は年に5日間、時間単位取得できるため、年次有給休暇と上手に組み合わせることで、無理なく仕事と介護の両立を実現しましょう。
② ケアプランの変更
介護支援が必要な状態は少しずつ変化していくため、必要な介護保険サービスもその時々に合わせて変更していく必要があります。
担当のケアマネジャーと相談し、定期的に見直しを行うようにしましょう。
また、当初の想定よりも仕事と介護の両立に身体的・時間的な負担を感じるようであれば、その都度、ケアマネジャーに相談し、追加の介護保険サービスの利用や民間サービスの活用なども検討しましょう。

4.企業の人事・総務担当者の方へ
経済産業省の推計によると、家族の介護に直面する従業員が今後増加することが見込まれる中、従業員が仕事と介護の両立が困難となり、身体的・精神的負担から仕事のパフォーマンス低下や介護離職などによる年間損失額は大企業で62,415万円/社、中小企業で773万円/社の損失が生じる可能性があるとされています。
そのため、企業は従業員に介護休業制度や介護休暇制度、両立支援制度を活用してもらうなど仕事と介護の両立を支援し、仕事のパフォーマンス低下や介護離職を防ぐことが必要です。
こうした中、育児・介護休業法の改正により、令和7年4月から次の内容が企業の義務となりました。
育児・介護休業法の改正による令和7年4月からの企業の義務
・介護に直面した労働者が申出をした場合に、両立支援制度等に関する情報の個別周知・意向確認
・介護に直面する前の早い段階(40歳等)の両立支援制度等に関する情報提供
・研修や相談窓口の設置等の雇用環境の整備
次のいずれかの措置を講じる必要があります
・介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
・介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備
・自社の労働者の介護休業・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
・自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
こうした法改正への対応はしなければなりませんが、実際に介護を理由に休みを取りやすい職場環境にするためには、経営者や管理職が重要性を認識し推進していくことが大切です。また、従業員に対する面接やアンケート、相談窓口などを通して、介護の実態を把握することや、相談しやすい雰囲気づくりに加え、残業時間の削減や休暇の取得促進、属人化している業務の見直しなど「働き方改革」を進めることも重要です。
では、大切な従業員が家族介護に直面し、不安を抱えた状態で人事担当者や職場の上司に相談に来た際、どのように対応したらよいでしょうか。次の手順は一例ですが、対応の参考にしてみてください。
従業員から相談があった際の対応
(1)状況の把握
まずは、従業員の話をよく聞き、介護が必要な家族の状態や従業員自身の心身の状況を把握します。そして、従業員は仕事を続けながら介護ができるのか不安なため、「仕事と介護の両立はできること」を伝えましょう。
地域包括支援センターに相談していない場合には家族の居住地にあるセンターに相談に行くよう促すと良いでしょう。
(2)介護に利用できる制度を説明
次に、法律で定められた介護休業制度や社内で設けている介護に利用できる制度について説明します。その際、利用する場合の手続き方法も併せてお伝えしておくと良いでしょう。
(3)従業員の意向確認と職場内の理解
従業員がどのような制度を利用しながら仕事と介護の両立を図っていきたいか意向確認を行います。
休暇の取得や勤務形態の変更をする場合には、職場の上司や同僚に情報を共有し、理解を得ることも大切です。
また、介護休業のようにある程度長い期間の休みを取る場合には業務の引継なども必要になるでしょう。
(4)介護休業中の側面支援
一般的に介護休業中は無給となりますが、一定の要件を満たす場合、企業が手続きをすることで従業員がハローワークから介護休業給付金を受け取ることができるため、そのための手続きを行います。
また、職場復帰が近くなったら介護の状況や従業員の心身の状況を把握し、職場復帰後の勤務形態などについて相談しておきましょう。
(5)職場復帰後のメンタルケア
職場復帰後、従業員は仕事と介護を両立するために社内の制度を利用しながら働きます。一方で、急な休暇取得や短時間勤務などの利用、残業の制限などをすることで、従業員自身が「職場に迷惑をかけてしまっているのではないか」と周囲の目を気にし、それをストレスに感じて離職につながる恐れがあります。
そのため、職場復帰後も、従業員が不安な気持ちを相談できるよう、定期的な面談や相談窓口などの相談体制を整えておくことや職場内での理解が重要です。
厚生労働省でも仕事と介護の両立に関する特設サイトを設けていますので、参考にしてください。